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暮らしと健康
獣医師執筆記事

共に生きる楽しみを知る~保護犬さんと保護猫ちゃんのこと①~ 

急に冷え込む日が出てきましたね。家の中でも足元が寒い時があります。
先日はうちの小さなスペースに秋のバラが咲きました。パパメイアンという素晴らしい芳香の黒薔薇です。最近は栽培が減ってしまって、切花で見つけることが難しくなってしまいました。

保護犬・保護猫について

保護犬猫さんについて少しお話ししてみますね。
以前は東京でも一人歩きをしている犬たちを見かけました。もう30−40年も前になりますが、当院でも何頭か保護し、譲渡がままならなかった子はそのまま病院の子として生涯面倒を見ていました。全国的には、現在も地域により一人歩きの犬たちはいると思いますが、この50年ほどでかなり数が減りました。2004年の犬と猫の引き取り数は約41万頭ですが、2020年には7万2千頭に減じています。(環境省HPより)
世界的にはもちろん、日本の中でも動物の愛護、保護、管理に関する意識は法律的にも見直され、一般社会の意識も大きく変わってきました。特に伴侶動物が人間と共にあることが人の社会にとって大きな恩恵をもたらすことも明確になってきました。現在では人も動物も共に幸せになれる社会を目指さない限り、この先の人類の存続、地球の存続にも危うさがあることを皆知るようになっています。今でいう人と動物と地球環境福祉は一つであるという概念ですね。「One Welfare」は今重要なキーワードになっています。
以前ご紹介した『アニマルウェルフェア5つの自由』も、このコラムのサブタイトルになっている『人と動物の絆:Human Animal Bond』も、人と動物と地球環境のことを考えていく上で大切な視点を表しています。実際に本邦で犬と猫の保護頭数が減じていることも社会的意識が大きく作用していることに間違いはないのですが、現場でのさまざまな諸問題は解決の一方方向に向いているばかりではありません。まだ、解決しなくてはならない問題は山積しています。

共に生きる楽しみを知る(保護犬ステファンとの話)

私が獣医師として、一般の臨床現場で尽力している保護動物の取り組みや動物たちの事について、2回のコラムに渡ってお伝えしたいと思います。
少し別のお話になりますが、一つエピソードをお話しします。
迷子で行き場がなく、当院の子として生涯を全うした犬たちの中でステファンという雑種犬がいました。出会った頃にはすでに7歳くらいで、普段は無感動な淡々としたタイプでした。

赤坂の街を彷徨っていたスーパー君とステファンちゃん

その当時(1986年ごろ)、日本には「新しい犬のしつけ」の波が押し寄せていました。当時の全米ドッグトレーナー協会会長テリーライアン先生が来日、滞在し、今は当たり前になっていますが「褒めてしつける」しつけ方法や、犬たちの目線で考える思考を日本に初めて伝授してくださっていました。その前の年にはハワイからアレン宮原獣医師が来日し、初めての「人と動物の絆」のセミナーが開催され、日本の伴侶動物医療と人と動物の関係は大きな転換期を迎えていました。

テリーライアン先生

テリー先生の限られたしつけの授業にステファン(男の子の名前なのに女の子です)は私と一緒に参加することになり、中年をすぎて新たな学びを始めたのです。中年を過ぎた迷い犬、感動に薄いステファンは果たしてお座りができるのか?伏せができるのか?学習できるのか?ハンドラーの私もステファンも初めての体験で心もとない日々でした。しかし、しつけにより日々学んでいく中で、ステファンの目の輝きが日に日に増してくるのがわかりました。ステファンは新しいことを学び、習得していきました。
犬と共に学ぶことの目的は「おすわり」や「伏せ」「待て」ができるようになることではありません。現在では周知されていることですが、当時はどういうことなのか?という認識で、それらを含めテリー先生は犬と向き合う時の人間の心構えと思考を教えてくださっていたと思います。
私が真剣にステファンに向き合うことで、つまり人が犬と向き合うことで犬の能力は開発され、より輝きを増し、本来の能力が引き出される。人も同様に、犬という動物をより深く知り、理解し、愛情が深まり、共に生きる喜びを知る。犬という動物の本質を知り、共に生きる楽しみを知る。なんとも素晴らしいギフトでした。ステファンが初めて私の伝える意志を理解した!とわかった瞬間、そこにまさに見えない「絆」を感じたものです。彼女が好きでなかった「伏せ」も理解し、ゆっくりと体を低くした瞬間を私もステファンも一生忘れないでしょう。ステファンはすでに虹の橋ですが、今も覚えていてくれると思います。そして、その後もステファンは色々な場面で活躍し、気ままな性格はそのままに、トレーニングの時には目を輝かせて、生涯を全うしました。

丸の内の駐車場を一人疾走していたところをうちで保護した保護猫です。今はすっかり成長しています。

最後に

今回は、おそらく1980年頃生まれの保護犬のエピソードをお話ししました。次回は現在の保護犬猫ちゃんのことお伝えしたいと思います。
また、現在の犬と猫事情や病気のこと、さまざまな急な場面での対処などについて12月初旬まで私の所属するJBVPフォーラム年次大会が配信中です。一般の方々は無料視聴が可能です。よろしかったら是非ご覧ください。
こちらから


柴内晶子先生が執筆された
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