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暮らしと健康
獣医師執筆記事

アニマルウェルフェアを知る~5つの自由について~

少し暖かい日も出てきましたね。
先日は、窓から見える紅白の梅の木にメジロが遊びに来ていました。「梅に鶯」ではありませんが、春を心から感じる美しい風景でした。
しかし、雨の日などまだ底冷えする寒さもあり、そんな日はうちの動物達はあまり動かず、猫は回していた乾燥機の辺りで寝ていました。家の中でもスポットで一番暖かい場所を良く知っているのです。

思えば現代の人間は寒さや風雨からは隔絶された別世界の様に快適な家に住むようになりましたが、以前は人も洞穴生活をしていて自然界の容赦ない生存競争に曝されていたはずです。そして、その頃からすでに伴侶動物と暮らし始めていたのです。
動物との暮らしの長さと変遷はすごい!と感動します。
毎日の暮らしの中では天候はもちろん、野生動物も脅威であったはずです。人間より鋭い危険察知能力を持つ親しく暮らす動物には助けられていた事でしょう。しかも、人間より3度平熱の高い動物達との触れあいは特に寒い冬には心身を暖める交流だったのではないでしょうか。

伴侶動物の3本の柱

伴侶動物には3本の柱「福祉,教育,医療」があります。
これらを礎にして動物の生涯を私達が「預かり主」になっていきます。また、これらの柱が守られるかどうかは私達人間つまりは伴侶動物の家族次第ということでもあります。
数十年前までは私達も外を彷徨う犬たちを保護することがありましたが、最近は都心では犬が彷徨っていることはまずなくなり(地域によって野犬化の問題も起きています)、外の猫の保護と譲渡も地域によりますがかなり進んでいます。都内では区域内での外の猫自体の数がほぼゼロになっている場所もあるほどです。
しかし、最近ではとてもケアができない数の動物を家にいれてしまい、それが崩壊してしまう「多頭飼育崩壊」のニュースが時々聞かれます。アニマルホーダーと呼ばれ精神的な疾患を有する方もいれば、プロとして繁殖していた方が同じような崩壊をきたすこともあり、この問題は今は後を絶たない状況です。私達もそうした動物の譲渡をお手伝いしていますが、適切な環境で成長していれば起きていなかったはずの障害を抱えてしまっている子犬子猫もみかけます。
人間の責任は本当に大きいです。

20年以上前に赤坂見附で保護され、赤坂動物病院で過ごしたスーパーとステファン

アニマルウェルフェア(AW)について

 皆様はアニマルウェルフェア(AW)という言葉を耳にされたことがあるかもしれません。現時点では日本ではまだまだ認知度は低いと言われていますが、私の周りでは一般の方々も認識されている方が増えているように感じています。今はかなり様々な場面で話題に上がるようになっていますのでポピュラーになってきていますが、動物が生きていく上で必ず守られなくてはいけない原則を示したものです。
具体的には5つの自由として示されています。

アニマルウェルフェア 5つの自由
1  飢えと渇きからの自由
2 不快からの自由
3  痛み、怪我、病気からの自由
4  恐怖や抑圧からの自由
5 動物本来の自然な行動をとる自由(本来の習性を制限されない)

 

アニマルウェルフェアの始まり

元々は1960年代に産業動物分野の悪生活環境を改善するためにイギリス発で提唱されたものです。
家畜福祉の活動家ルースハリソンという女性が著した「アニマルマシーン」の中で示された、当時の畜産事情への問題定義が世間を動かしたと言われています。化学物質使用の地球環境への悪影響を提言した「沈黙の春」の作者レイチェルカーソンもこの書を推薦しています。

Five Freedom(5つの自由)への認知度が高くないと言われる日本でも、より良いクオリティの品質を保つ努力を続ける畜産業の方々の間では5Fが実践されつつあります。経済面や労働力などでの問題は多いようですが、産業動物分野でも動物が生まれ、育まれその後に人間の糧になるとしても、生きている間の環境が豊かで快適であることで結果的に病気の発生も少なく、より良い形で維持ができることも分かってきています。
伴侶動物の実質的な親であり家族である私達は「医療・福祉・教育」と共に5Fを十分に考えて生涯を共にしたいものです。

最後に

アニマルウェルフェア5つの自由(AW5F)を良く噛みしめてみると、伴侶動物にも産業動物にも野生動物にも重要な事であるとともに、私達人間の生活の中でもこの5Fの中には失っているものがあるように思います。
今や世界は「One Health」(人と動物と地球環境の健全はきっても切り離せない一つの健康)の時代であり、ただ一つの地球環境を如何に守るか?という時代です。人間同士が互いを尊重し、最低でも世界平和を遵守し慈しみ合っていかなくてはいけない大切な時代ではないでしょうか。

 


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