犬猫の不妊・去勢手術
はじめに
一緒に暮らしているワンちゃんネコちゃんの不妊・去勢手術は行っていますか?「手術する必要がない…」「可哀想…」といった理由で不妊・去勢手術を行っていないご家庭もあると思います。不妊・去勢手術は繁殖制限のイメージが強いと思いますが、手術を行うことで病気や問題行動を予防することもできます。一方、手術のリスクや繁殖ができなくなるといったデメリットがあることも事実です。今回は、メリットとデメリットを中心に不妊・去勢手術についてご紹介いたします。
不妊・去勢手術について
繁殖への欲求は動物にもともと備わっているものであり、自らの意思でコントロールができません。また、この行動を無理に抑えつけることはストレスの原因となります。
日本では動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)によって、適切飼育ができなくなる恐れがある場合は不妊・去勢手術や雌雄分別飼育などの繁殖制限を行うことが求められています。望まれない命を増やさないためにも繁殖を希望しない場合は早めに不妊・去勢手術の検討を行ってください。
メスの犬は年に約二回発情が認められ、一度の妊娠で小型犬では2~4匹、大型犬では8~12匹ほど受胎します。メスの猫は犬と違い発情の回数は決まっておらず、日照時間によって繰り返し発情し、一度の妊娠で2~8匹受胎します。犬猫共通してオスには発情期は存在せず、発情中のメスに近づくことで発情します。
犬の場合メスは6~12ヶ月、オスは12ヶ月以内、猫の場合メスは6~8ヶ月、オスは8~12ヶ月で性成熟を迎えます。早めの不妊・去勢手術で防げる病気や問題行動もありますので、繁殖を考えない場合やショーに出場する予定のないワンちゃんネコちゃんは6ヶ月ごろまでに不妊・去勢手術を行ってください。ただし、初めての発情には個体差がありますので、早めに発情の兆候が見られた際や、マーキングやマウンティングを行うようになった際はかかりつけの獣医さんに相談しましょう。
不妊・去勢手術のメリット
不妊・去勢手術には交配による感染症や望まない妊娠を防げるだけではなく、病気や問題行動の予防といったさまざまなメリットがあります。
犬・猫に共通して、生殖器の病気やホルモンの影響を受ける病気を予防することができます。生殖器の病気の中には子宮蓄膿症などの命に関わる病気もあるほか、治療の際に卵巣子宮摘出、去勢手術が必要な場合も多いため、繁殖を望まない場合は早めに不妊・去勢手術を行うことが望ましいです。また、クッシング症候群や糖尿病などのステロイドホルモンの影響を受ける病気の予防にもつながります。
その他にも、発情や繁殖への欲求による問題行動を防ぐことができます。
犬のメリット
発情期に伴う出血がなくなる
発情による性格の変化がなくなり、ストレスから解放される
●オスの場合
マーキングや無駄吠えが減り、落ち着く
攻撃性が抑えられ、温和になる
性的欲求によるストレスから解放される
猫のメリット
発情期の大きい鳴き声や外に出たがることがなくなる
発情期のストレスから解放される
●オスの場合
発情シーズンの鳴き声、スプレーが抑えられる
外に出ることによる猫同士のケンカや交通事故に遭うことを防げる
不妊・去勢手術のデメリット
不妊・去勢手術を行うと当然繁殖は行えなくなります。また、全身麻酔や術中・術後の感染症といった手術のリスクも伴います。さらに、術後はホルモンバランスが崩れることによって、オス・メスともに太りやすくなり、メスの犬の中にはまれに尿失禁になる可能性があります。肥満や尿失禁などのホルモンバランスによる影響は対策をとればコントロールが可能なので、かかりつけの獣医さんに相談しましょう。
また、ドッグショーやキャットショーなどは繁殖するためのワンちゃんネコちゃんを評価しているため、不妊・去勢手術を行ってしまうと出場資格を失ってしまいます。ショーに出場させることや繁殖を考えている場合は注意が必要です。
TNR活動
『さくらねこ』という言葉を聞いたことはありますか?
最近はテレビCMでも目にしますが、不妊・去勢手術済であることの目印として片耳がV字にカットされている猫のことを『さくらねこ』と呼びます。飼い主のいない猫に不妊・去勢手術を行い、元の場所に戻すことで一代限りの命を全うしてもらうという、望まない繁殖による殺処分を減らしていくことを目的としたTNR活動の一環で行われています。TNR活動は、「Trap(捕獲)」「Neuter(不妊・去勢手術)」「Return(元の場所に戻す)」から名づけられた、猫を愛する活動家さんたちによる取り組みです。
地域猫の活動として行われていることも多く地域によって取り組みも異なるため、詳しくはお住いの自治体や動物愛護センターのホームページなどをのぞいてみてください。
さいごに
現在日本では年間14,457匹の犬や猫が殺処分されています(2021年度)。殺処分数は年々減少していますが、毎日40匹もの犬や猫が処分を受けています。猫に関しては、子猫が殺処分の対象になることも多く、処分を受けるためだけに生まれてくる命が存在してしまっています。保健所に引き取られる犬や猫を減らし、不幸な命を増やさないためにも繁殖を希望しない場合は不妊・去勢手術を行いましょう。
〈参考文献〉
・山根義久 .イヌ・ネコ 家庭動物の医学大百科 改訂版 .パイ インターナショナル/図書印刷株式会社 ,2012
・東海林克彦 .犬と猫との暮らしの教科書 .公益社団法人日本愛玩動物協会 ,2019
・東海林克彦 .愛玩動物飼養管理士<2級 第1巻> 2021年度<第41期> .公益社団法人日本愛玩動物協会 ,2021
・東海林克彦 .愛玩動物飼養管理士<2級 第2巻> 2021年度<第41期> .公益社団法人日本愛玩動物協会 ,2021
・武藤修一 .アニマルサイエンスシリーズ ライフステージからみた犬と猫の健康管理 .IBS出版株式会社 ,2008
・環境省 あなただけにできること -動物の繁殖制限-
・環境省 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況
・どうぶつ基金 さくらねこ♥TNRとは