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暮らしと健康
獣医師執筆記事

「命の預かり主」~保護犬さんと保護猫ちゃんのこと②~

先日、東京湾に用事があって行ってきました。その日は朝から陽差しがあり暖かい日で、洋上に光る太陽は確実に秋の落ち着きを醸し出していました。山では真っ赤な紅葉のグラデーションが始まっていますね。

当院では創業当時60年ほど前から、外に暮らす猫や犬の譲渡の推進を行ってきました。
もう30年も前になりますが、あるごみ収集日の朝に当院の患者さんご家族が涙ながらに紙袋を持って見えたことがありました。茶色の紙袋の口はぎゅっと縛ってあり、その中にはまだ乳飲み子の3頭の子猫が入っていました。患者さんのご家族は「本当に心が痛い、今朝うちの前の収集所に捨ててあったのよ。先生申し訳ないけれどなんとかしてあげていただける?私もお手伝いするから。」と、小さな紙袋を差し出されました。私は獣医師に成りたてでしたので、当時の院長であった母が受け取り、「本当にひどいことをする人がいるわね」と一言呟いたことが忘れられません。

現在は社会の意識も変わり、動物は伴侶であるという意識を持って行動する人々が増えてきたと思います。
当院の患者家族であった方々は立派な社団法人を作られて、日本で先頭を切った猫の譲渡活動をなさっています。(以前ご紹介した千代田区のちよだニャンとなる会さん)

そして、私の古くからの友人はずっと渡米して勉強していましたが、日本の大学に戻り、本格的に保護動物などの問題に取り組んでいます。保護犬猫の問題は日本の伴侶動物が抱える問題のごく一部だと思います。

当院でも今も途切れることなく、順次保護先から当院へ移動しフルケアをして、少しくたびれていた保護犬猫たちをピカピカにして、ご家庭を見つけるお手伝いを続けています。しかし、保護犬猫の譲渡活動は一度に大量にできる仕事ではなく、犬も猫も心身ともに傷ついていることも多いため、地道に犬や猫のペースに合わせてじっくり行っていく必要があります。
それでも手をかけ、心をかけ、愛情を持って日々接すれば、前回のステファンのストーリーでお話ししたように、その目には光が宿り輝きすら見られるようになり、人に愛を返してくれるようになります。何ものにも変え難い瞬間で、皆最初のころの様子から考えると信じられないくらいに可愛くなります。

保護動物から動物を迎えることは大切なことですが、第一選択であるとは思いません。保護動物の場合はその動物への深い理解が必要です。
ブリーダさんやペットショップさんから好みの品種を迎えることも人の喜びの一つだと思います。そこにいる子犬や子猫もまた、同様に自分の家族を探していることに何の変わりもありません。大切なことは伴侶動物を求める人々がどのような心根で動物と暮らすか、求めるか、ということだと思います。そして、「優良な」ブリーダーさんやペットショップさんを作っていくのも一般の皆様の意識や姿勢によるのではないかと特に最近は強く感じています。

伴侶動物たちとの毎日をより良く素晴らしいものにしていくのは多くの皆様の知識と意識によるのです。
「動物がどのように扱われているかを見るとその国のことがよくわかる。」と言葉を残したのはマハトマ・ガンジーだと聞いています。
様々なご意見があると思いますが、伴侶動物と共に人が暮らすことでたくさんの良いことがあることは(デメリットを踏まえても!)紛れもない事実だと思います。
伴侶動物は自然に帰る場所のない、地球からの贈り物です。私たちは「命の預かり主」ですね。

 

現在の犬と猫事情や病気のこと、さまざまな急な場面での対処、しつけなど、12月初旬まで私の所属するJBVPフォーラム年次大会が配信中です。一般の方々は無料視聴が可能です。私もモデレータとして登場します。よろしかったら是非ご覧ください。

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柴内晶子先生が執筆された
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