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暮らしと健康
獣医師執筆記事

動物福祉について

先日は都会の中心にある釣り堀のそばでたくさんのトンボが飛んでいるのを見つけました。空気はすっかり秋の気配を含み秋に突入かと思いきや、まだまだ日差しが強く暑い日もあり、少し夏が長くなったような感じがしますね。
先日は学校で運動会が開催されました。新型コロナウイルス禍に配慮された形式でしたが、本当に何年かぶりの運動会で、秋晴れの美しい天の高い日でとても爽快でした。(私は運動に参加していませんが……笑)

獣医学部での講義 

学校といえば、私は普段臨床現場で働いていますが、毎年大学の獣医学科の講義を行っており、年に数回、動物の福祉倫理の授業のうちの一部を受け持っています。その講義もオンラインだけになって3年になります。今年の秋冬はリアル講義になるかもしれないというお話もありましたが、オンライン留保となりました。
獣医学科の学生さんは皆さん夢と情熱を持ち、動物と人との暮らしを考える糸口を探していたり、地球環境のこと、野生動物のこと、動物園動物のことを考えたりしていて、産業動物の道を選ぶのか伴侶動物の道を選ぶかなど様々な悩みや希望を持って受講してくださっていると感じます。

One Welfare

先日のコラムでは、愛玩動物看護師という名称で仕事として国家資格ができることをご紹介しましたが、獣医師ももちろん国家資格です。(愛玩動物看護師についての記事はコチラから)
主として獣医師の中核になる仕事は、診断、処方、手術の3つです。この3つが国家に許された獣医師の特権で、獣医師資格を持つ人だけがこの仕事を許されています。このコアになる仕事以外の部分は徐々に動物看護師さんが担っていけるようになるのではないかと思います。そして、獣医師として身につけておかなくてはいけない大切なこととして、動物福祉についての理解があります。

少し前にOne health についてもお話ししましたが、最近ではOne Welfareの概念が注目されています。
「人と動物と地球環境の福祉は一つである」というもので、これからの私たちの生活全てに大変重要な概念だと思います。
獣医学科の学生さんも私たち獣医療関係者もほとんどの人が動物を好きで、この分野に進んでいると思います。動物を愛おしく思い、大切にしたいと思う気持ちが溢れていますが、私たちは動物を愛情面だけでなく、産業動物として利用しなくてはならない側面も持っています。
また、溢れる愛情だけでは動物を守りきれない場面もあります。動物愛護という言葉も馴染みのある言葉ですが、この部分はおそらく動物好きの皆さんが心に持っていることだと思います。ただ、それぞれの動物の在り方をより科学的に考える視点がないと、動物自身の心身の健全を守って本来必要な条件を揃えてケアし、維持することができない場合もあるのです。
例えば、シェルターなどの施設でも個人の家でも、その場のスペースやケアのできる人間の数や能力などに合わせた動物の数や種類を維持していかないと、結果的に動物の福祉に反する形になってしまう場合があります。(最近ニュースになる多頭飼育崩壊など)
そして、ただ環境を整えて食事を与えるだけではなく、その動物の本来の特性や個体ごとの性質、好みなどを捉えて、教育したり、ケアしたり、能力を伸ばす努力も大切になります。
動物福祉は愛護の心に「科学の視点をもつ」大切な考え方なのです。

産業動物の観点

産業動物は、私たちの命を支えるための役を担ってくれています。その動物たちも生きていく日々の中で、心身健康に清潔で気分の良い状態を維持することが大変重要であることが昨今非常に注目を浴びています。(以前お伝えした5つの自由です) 
少し複雑な部分もありますが、これからの世界では人の福祉、地球環境の福祉もより深く考えられるようになると思います。私たちは動物との関係性や環境、心持ちに至るまで、常に動物福祉に照らし合わせ、正しいかどうかを考えながら歩んでいくことになるのだと思います。
動物福祉は動物への愛情を礎にした科学です。客観的な目で判断することで動物を護る、大切な視点なのです。

来年は大学の講義が安全なリアル講義になることを願ってやみません。

 


柴内晶子先生が執筆された
人と動物の絆~Human Animal Bond~ 記事一覧はこちらから

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