欧州動物福祉のラディカルな意志
フランスでは飼い猫の個体識別が飼い主の義務に
過料は750ユーロ
2020年12月20日に公布された、動物福祉に関する新たな法律により、飼い主は飼育する猫に対して、後述する2つの方法のいずれかで個体識別することが義務化されました。違反が発覚した場合、750ユーロ(約93,000円)の過料が徴収されます。
フランスでも他国同様、ペットの放棄が大きな問題となっています。動物の放棄には最高2年の懲役、3万ユーロの罰金が科せられますが、そのほとんどが検挙されていないのが実態です。また、これまでは生後7か月以上の猫を販売、または贈与する際にのみ、元の持ち主に対しては個体識別措置が義務化されていました。しかし、これですと子猫の状態から飼うことになった猫に関しては、大きくなってからも何の識別措置も課されないことになります。
この新しい法律の施行によって、この状態を是正するとともに、猫の所有に関する飼い主の責任がいっそう明確になり、放棄される猫と、放棄によって野生化した猫が地域の生態系に甚大な影響を及ぼす事例を減少させることが期待されています。
識別方法は、
- 電子チップを体内に埋め込む。写真のように専用器具でコメ粒大のチップを打ち込むのですが、チップには識別番号、生年月日、性別、品種などの個体情報が入っています。費用は50~70ユーロで、情報の読み取りにはまた別の専用器具が必要です。また、この方法の場合は飼い主のEU内の旅行に同伴させることも可能になります。
- タトゥー(入れ墨)を入れる。耳が一般的。専用の読み取り器具がなくても、一目で識別番号がわかる利点はありますが、消去または偽造が可能であること、動物に苦痛を与えないためには麻酔が必要であることから、昨今では減少傾向です。
飼い主の負担が増えるように感じられますが、飼い主にとってメリットもあります。
まず識別のための施術は必ず獣医師が行い、その際に診断も伴うため、健康状態を知り、飼育に必要なその個体特有の要件の有無がわかります。そして、迷子、盗難に際しての発見率が80%と大幅に上昇します。
例えば、あるフランス人夫婦はキャンピングカーから飼い猫を盗まれましたが、EUの電子チップ登録ネットワークによって、2年後にイタリアで発見された飼い猫を取り戻すことに成功しています。このように盗難から転売という違法業者のルートは個体識別によってほぼ壊滅させられるのではないかと期待されています。また、野放図に繁殖させ、売れ残った猫を捨てる事象に対しても効果的です。
この法律の施行にはもう一つの意図があり、それは飼い猫と野生猫(いわゆる「野良猫」)を容易に区別することが出来るようにすることです。個体識別がなされていない猫≒飼い主のいない野生猫となり、このことは後者のやむを得ない避妊措置の加速につながるのですが、その辺りの事情はまた次回にお伝えします。
※犬につきましては同様の法律は以前からあり、1999年以降に生まれた生後4か月以上の飼い犬は全て識別されています。犬の場合は狂犬病の予防接種情報も電子チップに入っています。
参照リンク:
https://agriculture.gouv.fr/sites/minagri/files/2015-7volets_rv.pdf