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暮らしと健康
獣医師執筆記事

高齢になっても伴侶動物と暮らそう! 70歳からパピーとキトンプロジェクト

皆様こんにちは、6月が終わる前に猛暑がやってきました。地球温暖化や異常気象の影響は確実に出てきていると実感します。異常な暑さで世界の農産物や海にも影響がでるのが心配です。

日本の高齢社会

2000年初め頃に超高齢社会に突入しすでに20年が経過した現在の日本では、65歳以上の国民人口の占める割合は約3割となっています。3人に1人は高齢者であるという事です。そして日本の年間の医療費は43兆円と言われており、そのうちの半分強を65歳以上が使用しています。
このような人口構成を考えると、高齢の方々がどれだけ健康に日々を過ごせるかどうかは日本経済にとっても家族生活にとってもとても重要な事だとわかります。

伴侶動物との暮らしの効果

伴侶動物の代表格である犬が人と暮らし初めて3万年ほど、猫は1万年ほどと言われています。ここまでの長い歴史を一緒に歩んできた理由には、共に歩む事で双方にとって「良い効果」何かしらのメリットが大きかったからであると思わざるを得ません。
現代ではその「良い効果」が着目され、科学的に解明されていっているものも沢山あります。子どもが成長する時期に動物とともに暮らす事で強く優しく、情緒の発達した思いやりのある大人に成長していくことなども知られています。(Purewal2017)(Poresky 1990

また、高齢者にとって伴侶動物は大きな役割を果たす存在です。

(写真:(公社)日本動物病院協会の動物介在活動現場の様子)

1980年に報告されたエリカ=フリードマン氏らの有名な研究では、伴侶動物と暮らしている高齢者とそうでない高齢者で心筋梗塞発作1年後の生存数を調査しました。結果、動物と暮らしている方々の生存数がそうでない方より多い事が有意差をもって報告されました。
更に、動物と共にあると血圧も安定し低めに保たれるという同氏の論文や、伴侶動物と過ごす高齢者の通院回数はそうでない高齢者に比べて2割少ないという報告もあります。(Siegel 1990)その他、特に犬と暮らす高齢者はフレイル(身体的虚弱)になりにくい、生活の質の低下が起こりにくいといった沢山の論文報告などがあります。

「70歳からパピーとキトンと暮らそう」プロジェクト

当院では十数年前から「70歳からパピーとキトンと暮らそう」プロジェクトを始めています。下の写真は本プロジェクトのきっかけとなったモンローちゃんとママです。

日本人の平均寿命は80歳を越えています。仕事をリタイアし、時間的余裕ができるけれど日々のルーティンを失ってしまう事は人の暮らしにとって決して良い事ではありません。
そういう時期こそ、伴侶動物と共に暮らし、人の傍らでしか生きる場所のない伴侶動物を幸せにすることは「生きがい」になるのではないでしょうか?独居の方もご夫婦だけの家庭も伴侶動物が1頭いるだけで会話のきっかけにもなると思います。
また、特に若い時から伴侶動物と共に暮らしてきた方々は、そのかわいらしさもお互いに愛情の交換がどれだけ出来るかも良く知っています。そのため、今まで何代も動物と暮らしたベテランの方は保護動物の家族になることを検討しても良いかもしれません。

動物と暮らす時には環境を整える事が必要だと思います。高齢になってから迎えるとなると、自身の身に何かがあったらどうしたらよいか?悩まれる方も多いと思います。しかし、「万が一」の備えは高齢かどうか?に限らず、若い年齢層の方であっても動物と暮らし始める時には必ず考えておかなくてはならない事だと思います。
私は多くの皆様に老若男女問わず、自身の伴侶動物についての遺言書や、何かしらの意思表示とセーフティネットワークを念のため考えて頂くようにお伝えしています。家族、友人、動物を愛する仲間との間で構築できると良いですね。
さらに、お出かけの際は老若男女問わず、下の写真のようなカードを持ち歩いておくと万が一、自分が動けなくなってしまった時に役立つかもしれません。

高齢の家族も伴侶動物にも第二の人生はあって良いと思います。お互いが幸せになれるように、例えば行政機関が人と動物のセーフティネットワークを考えて下さるととても素晴らしいと思います。

動物を通じたコミュニケーション

私達は人と動物の絆が人の心をいち早く開かせることを幾度も体験しています。例えば、動物の民生委員のような形で、高齢の方が動物と暮らす世帯には「おたくの○○ちゃんのご様子はいかがですか?」と声かけをして伺えば、人対人では頑なになってしまう場合でもふっと心が緩み、動物の話を中心にコミュニケーションがとりやすいのではないかと思います。
逆に高齢者が動物と暮らしていく中で、急病などの時に対策がとられていないと人も動物も不幸になってしまうため、あらかじめの用意は重要であり地域でのサポートはこれから必須であると思います。

 

高齢者が伴侶動物と暮らす上で考えられる様々な問題は現時点で完全解決してはいないと思いますが、この暮らしを妨げなくて良い社会を目指しもっと成長していけると良いと思っています。誌面上では語り尽くせない様々がまだまだありますが、少し見方を変え、可能性を信じて諦めずに様々な働きかけを続けて行きたいものです。
今回は70才から子犬子猫と暮らそうという流れをお話しましたが、子犬子猫でなくても「御縁のあった成犬成猫との暮らし」であっても、生涯伴侶動物と暮らせる環境作りへの取り組みをやめないことが重要な生きる姿勢ではないかと思います。
私もまた、生涯にわたり、暖かく滑らかな被毛と健やかな瞳で見つめてくれる伴侶動物と共に暮らしたいと思っています。

 


柴内晶子先生が執筆された
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