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暮らしと健康
獣医師執筆記事

米国の生涯伴侶動物と暮らせる高齢者住宅「タイガープレイス」

秋も深まり、夕方も5時を過ぎたらもうすっかり街は夜の景色です。
先日、以前お伝えした、愛玩動物看護師の国家試験予備試験がありました。本試験は来年2月ですが、当院でも多くの看護師さんたちが受験しました。長年の勤務経験のある方達なので良い結果が出ることを心から祈っております。

 同時に、正式な合格者が出るまでは、愛玩動物看護師という名称やそれに準じた名称はしばらく使用ができなくなります。当院ではアニマルケアスタッフ(ACS)という名前でしばらく仕事をして行くことにしています。

 

看護師さんたちの役割は本当に大きく、動物病院の維持に不可欠な存在です。動物病院の仕事には、元々獣医師でなくてはできない仕事というのが3つあります。それは診断、手術、処方です。

アメリカの獣医師とVeterinary technician(動物看護師)

 私が以前アメリカの動物病院に滞在したとき、獣医師とVeterinary technician(動物看護師)は完全に役割分担が決まっており、1名の獣医師におよそ3名ほどのVeterinary technicianがいる体制の病院が多かったです。アメリカの伴侶動物医療は日本に比して10~20年先進的であると言われいますが、その中でも私はリフォルニア、ニューヨーク、シカゴ、オハイオ、コロラド、ミズーリ、ワシントンなどの個人病院や大学病院をたくさん見学させていただきました。さまざまな動物病院の形がありましたが、一般的な動物病院は朝早くから夕方までお仕事をしており、夜の急患は夜間救急の病院が対応するという形が一般的でした。夜間のエマージェンシーホスピタル(救急動物病院)は朝になると主治医の元に患者さんを戻します。動物病院の獣医師は診断と手術と処方をして、そのほかの様々な仕事はほぼ全てVeterinary technician が担っていました。とても合理的なスタイルでした。そして、皆さんその職業をとても誇らしく思っていて、「人と動物の間で働けるなんて、他にこんなに良い仕事はない・・・。」と心からの言葉をはっきりと伝えてくださりました。

日本の動物看護師さんについての記事はこちら!

 

アメリカの素敵な高齢住宅「タイガープレイス」

アメリカは伴侶動物医療に関して非常に先進的な国ですが、それは動物医療に限った話ではありません。人と動物との関係についても先進的な研究が進められており、共に暮らしていくための素敵な施設などが存在しています。私が数年前に訪問した、ミズーリ大学にある「タイガープレイス」は、伴侶動物と共に暮らすことを奨励する高齢者住宅です。ミズーリ大学は、人と動物の医学の共通性に着目し、「人と動物の相互作用の研究」が進められている場所です。そして、高齢者の状況が変化しても、高齢者側の環境や居住場所を変化させるのではなく、同じ場所に住み続けながらその時々に必要な医療や暮らしの環境の方を対応させるという発想で作られているのがタイガープレイスです。当然、暮らしの中には伴侶動物との暮らしも入っており、高齢者が伴侶動物と暮らしながら入居生活を送ることを奨励している場所でもあります。

 

この流れの先頭を切って進めてきたレベッカAジョンソン博士は幾度も来日して講演もしています。私もアメリカや講演で来日された際にレベッカ先生と色々な話をし、学ばせて頂いています。とてもパワフルな先生で、タイガープレイス成立のため法律まで変えて、成し難きを成し遂げた方であると強く感じます。

日本のような超高齢社会では生涯を自然に伴侶動物と暮らすことのできる場所は必須ですが、実現できるところは本当に少ないです。伴侶動物との暮らしは、日本の莫大な医療費の削減にもつながり、人々の心の平穏を作ってくれます。一人でも多くの方がこの事を理解してくださることを願ってやみません。これは高齢者の心身の健康のためでもありますが、その先を担う若い人々の負担軽減のためにも非常に重要な事なのです。日本にもタイガープレイスのようなモデルケースがひとつできる事で、後に続く場所が出てくるのではないかと期待をしています。

人と自然は切り離せない関係

余談ですが、私がアメリカで訪問したある獣医師ご夫婦のことです。大学で働くお二人は職場から離れた場所に家を持っていました。濃い霧の中を1時間以上車で走り、ご夫婦の自宅に到着しました。「さあ、着いたわ」と言われ車から降りると、家の前には馬場があり、白い霧の中から艶々と輝く黒馬と白馬が現れました。あまりの美しさに思わず見惚れたのを思い出します。二人は乗馬が好きでそれぞれの馬たちを家の前の馬場で育成中なのだと言われ、日本の、特に東京との暮らしの違いには驚きました。そこに都会はないけれど、多分、素晴らしく充実した暮らしがあるのだと感じたものです。

私は自然環境で過ごすことがこの上なく好きですが、東京での日常も気に入っています。どこで暮らしていても人間は自然の世界から完全に離脱はできません。伴侶動物の存在は自然界からのギフトでもあると感じます。人が優しさを、そして人間だけの地球ではないことを忘れないための、大切な存在であるといつも実感しています。

 

現在の犬と猫事情、病気のこと、しつけなど、12月初旬まで私の所属するJBVPフォーラム年次大会で配信中です。一般の皆さんは無料視聴が可能です。私もモデレータとして登場していますので、是非ご覧ください。

 


柴内晶子先生が執筆された
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